猫の口臭やよだれは要注意?「吸収病巣」の症状と治療について獣医師が解説
「以前より口臭が気になるようになった」
「よだれが増えた」
「食べたい様子はあるのに途中で食べるのをやめてしまう」
このような変化に気づいても、「年齢のせいかな」「少し様子を見よう」と考える飼い主様は少なくありません。
しかし、猫は痛みや不調を隠す習性があるため、見た目は元気そうでも、口の中では病気が進行している場合があります。
当院でも、食欲の低下や口臭、よだれをきっかけに来院し、詳しく検査を行った結果、「吸収病巣(きゅうしゅうびょうそう)」が見つかるケースを多く経験しています。
吸収病巣は猫に多い歯科疾患のひとつで、強い痛みを伴うことがあります。一方で、歯ぐきの下や歯の根元で進行することが多いため、外から見ただけでは気づきにくい病気です。
今回は、吸収病巣とはどのような病気なのか、飼い主様が気づけるサインや検査方法、当院が大切にしている治療の考え方についてご紹介します。

■目次
1.約3割の猫に見られるといわれる「吸収病巣」とは?
2.飼い主様が気づける吸収病巣のサイン
3.見た目では分からない!歯科用レントゲンが必要な理由
4.診断の流れと麻酔前検査について
5.治療方法|当院が大切にしている考え方
6.治療後のケアと当院の猫にやさしい歯科診療
7.まとめ
約3割の猫に見られるといわれる「吸収病巣」とは?
吸収病巣は、歯が少しずつ溶けて壊れていく猫特有の歯科疾患です。
人の虫歯とは異なり、歯の根元や歯の内部から病変が進行することが多く、進行すると強い痛みが表れます。
7歳以上の猫で多く見られますが、若い猫でも発症することがあり、年齢だけで判断できる病気ではありません。
発症の原因はまだ明らかになっていませんが、歯周病や慢性的な炎症などが関係していると考えられています。
初期は目立った症状がほとんど見られないことも少なくありません。しかし、進行すると食事がしづらくなったり、痛みによって生活の質が低下したりすることがあります。
また、歯の見た目に大きな異常がなくても、歯ぐきの下では病変が進行しているケースも少なくありません。そのため、見た目だけで異常の有無を判断することは困難です。
飼い主様が気づける吸収病巣のサイン
猫は痛みを我慢する動物です。そのため、吸収病巣が進行していても、初期には分かりやすい症状が表れないことがあります。
だからこそ、毎日の生活の中で見られる小さな変化に気づくことが早期発見につながります。
<食事中に見られる変化>
口の痛みがあると、食事の様子に以下のような変化が表れます。
・ドライフードを食べづらそうにする
・食べ始めても途中でやめてしまう
・片側だけで噛んでいるように見える
・食べ物を口から落としてしまう
「食欲がない」のではなく、「食べたい気持ちはあるものの、痛みによって食べられない」状態になっている猫も少なくありません。
<口まわりに見られる変化>
吸収病巣が進行すると、口の中の炎症や痛みによって以下のような症状が見られることがあります。
・口臭が強くなる
・よだれが増える
・口元を前足で気にする
・顔や口の周囲を触られるのを嫌がる
これまで口臭が気にならなかった猫で急に臭いが強くなった場合や、よだれが増えた場合は、口腔内に異常が起きている可能性があります。
<そのほかに見られる変化>
口の痛みが続くと、食事以外にも以下のような変化が見られます。
・体重が減る
・元気がなくなる
・毛づくろいの回数が減る
毛づくろいは猫にとって大切な習慣ですが、口が痛いと舌を動かすことも負担になるため、被毛が乱れてくることがあります。
これらの症状は吸収病巣以外の病気でも見られますが、「口臭」「よだれ」「食べ方の変化」が重なっている場合は、歯科疾患の可能性も考えられます。早めに動物病院で相談することをおすすめします。
見た目では分からない!歯科用レントゲンが必要な理由
吸収病巣は、歯の根元から進行することが多いため、口を開けて見ただけでは正確な状態を判断できません。
実際には歯の内部が大きく壊れていても、歯の表面にはほとんど異常が見られないケースもあります。そのため、見た目だけで「問題ない」と判断してしまうと、痛みを抱えたまま病気が進行してしまう可能性があります。
当院では、麻酔前検査で撮影する通常のレントゲンによって、下顎の歯根に異常が疑われる所見に気づくケースも少なくありません。
しかし、通常のレントゲンだけでは病変の広がりや歯の根元の状態を詳しく確認することは難しいため、確定診断や治療方針の決定には、麻酔下で行う歯科用レントゲン検査が役立ちます。
歯科用レントゲンでは、歯の根元や周囲の骨の状態まで詳しく確認できるため、どの歯を残せるのか、どの歯に治療が必要なのかをより正確に判断できます。
また当院では、必要に応じて口腔内CTも活用し、それぞれの状態に合わせた治療計画をご提案しています。
診断の流れと麻酔前検査について
吸収病巣が疑われる場合は、まず食欲の低下や口臭、よだれなどの症状について飼い主様に詳しくお話を伺います。
続いて口腔内を診察し、歯石の付着状況や歯ぐきの炎症、痛みが疑われる部位を確認します。
ただし、吸収病巣は見た目だけでは正確な状態を把握できないため、必要に応じて麻酔下で歯科用レントゲンを撮影し、歯の根元まで詳しく評価します。
当院では、安全に検査や治療を行うため、麻酔前の全身評価も大切にしています。
身体検査に加えて心電図検査を行い、さらに必要に応じて血液検査や血液凝固検査を実施し、年齢や持病も踏まえて全身状態を確認します。その結果をもとに、それぞれに合わせた麻酔計画を立てています。
また、当院では検査結果だけで治療方針を決めることはありません。
治療前には、「どの程度まで抜歯を希望されるか」「できるだけ歯を残したいか」など、飼い主様のお考えを丁寧にお伺いします。
猫の状態だけでなく、ご家庭での生活やケアのしやすさも考慮しながら、飼い主様と十分に相談したうえで治療方針をご提案しています。
治療方法|当院が大切にしている考え方
吸収病巣の治療では、一般的に痛みの原因となっている歯への対応が中心となります。
一方で、当院では「残せる歯はできるだけ残す」という考えを大切にしています。
歯科用レントゲンなどで歯の状態を詳しく確認し、保存できる可能性がある歯については、できる限り残す方法を検討します。
しかし、病変が進行して強い痛みが予想される歯については、猫が快適に生活できるよう抜歯をご提案する場合があります。
治療方針を決める際は、歯の状態だけではなく、年齢や持病、ご自宅で口腔ケアを継続できるかどうかも重要な判断材料です。
例えば、毎日の歯磨きが可能な場合には、歯を温存しながら経過を観察できるケースもあります。
また、「できるだけ抜歯は避けたい」というご希望をお持ちの飼い主様もいらっしゃいます。
そのような場合でも、当院では無理に抜歯をおすすめすることはありません。現在の状態や今後予想される経過について丁寧にご説明し、ご納得いただいたうえで治療方法を一緒に考えていきます。
当院では、猫と飼い主様の双方にとって無理のない方法を一緒に考え、長期的な口腔管理をサポートすることを大切にしています。
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治療後のケアと当院の猫にやさしい歯科診療
吸収病巣は治療が終わった後も、残っている歯の健康を維持するための継続的なケアが大切です。
そこで当院では、治療だけでなく、その後の口腔ケアまで一貫してサポートしています。
歯磨きに慣れていない飼い主様には、猫への負担をできるだけ少なくする方法をお伝えしながら、マンツーマンで歯磨きの方法をレクチャーしています。
一方で、猫の性格や生活環境によっては、毎日の歯磨きが難しい場合もあります。
そのような場合には、ご自宅で取り入れやすい口腔ケアをご提案するだけでなく、週1回程度の預かり歯磨きや口腔内のケアにも対応しています。ご家庭だけでケアを続けることが難しい場合でも、長期的に口腔内の健康を維持できるようサポートしています。
年齢に合わせた口腔内ケアのポイントについてより詳しく知りたい方はこちら
また、当院では猫が安心して受診できる環境づくりにも力を入れています。
猫は環境の変化に敏感で、来院そのものがストレスになることも少なくありません。そのため、猫専用の待合室を設けるとともに、猫専用の診療時間も設け、できるだけ落ち着いて診察を受けられるよう配慮しています。
さらに、人の歯科医療に精通した歯科医師や獣医歯科専門医と連携し、歯科用レントゲンや口腔内CTなどを活用しながら、それぞれの状態に合わせた歯科診療をご提供しています。
「食べ方が変わった」「口臭が強くなった」「よだれが増えた」といった変化は、吸収病巣をはじめとした歯科疾患のサインかもしれません。
猫は痛みを我慢してしまうため、小さな変化の段階で受診することが、痛みの軽減や生活の質の維持につながる可能性があります。
まとめ
吸収病巣は、猫によく見られる歯科疾患のひとつで、進行すると強い痛みを伴う病気です。しかし、歯ぐきの下や歯の根元から病変が進行するため、見た目だけでは気づきにくく、口臭やよだれ、食欲の低下などの変化が受診のきっかけになることも少なくありません。
また、正確な診断には麻酔下で行う歯科用レントゲンによる評価が重要で、その結果をもとに歯を残せるかどうかや、抜歯が必要かを慎重に判断します。
当院では「残せる歯はできるだけ残す」という考えを大切にしながら、猫の状態だけでなく、飼い主様のご希望やご自宅でのケア方法も踏まえて治療方針をご提案しています。また、猫専用の待合室や診療時間を設けるなど、猫へのストレス軽減にも配慮した診療を心がけています。
愛猫の口臭やよだれ、食べ方の変化が気になる場合は、「年齢のせい」と自己判断せず、お早めにご相談ください。当院では、精密な歯科検査から治療後の口腔ケアまで継続してサポートし、愛猫が少しでも快適に毎日を過ごせるようお手伝いしています。
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